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工樂松右衛門伝 本の紹介

これまで謎の多かった工樂松右衛門の生涯について徹底した史料の発掘、洗い出しにより、定かでなかった工樂松右衛門の実像に、より正確に近づけた評価本が発刊されました。今まで表に出ることのなかった工樂家保存の未公開史料の閲覧、調査によってさらに真実に迫った工樂松右衛門の広範囲な海事に関する業績が明らかになりました。

『近世海事の革新者 工樂松右衛門伝―公益に尽くした七〇年』は、神戸学院大学経営学部の松田裕之教授が3年強を費やしてまとめられた労作です。海事に関する異才の実像が、これまで見つけられなかった多くの史料を丁寧に探し出して徹底調査した結果生まれた良書です。

「近世の海を変えた工樂松右衛門の真実!」として、革新的な帆布を開発して江戸期の海運に飛躍的発展をもたらし、やがて現在の北方領土をはじめ、日本各地の港湾整備にも尽力。北前船の船頭から海事百般の名工となった窮理実践者は、いかに自身の運命と時代を切り拓いたのか?工樂家伝来の未公開史料を加えて、公益に捧げた70年の生涯を再現する本格的評伝です。

信頼出来る資料によって詳細に彼の活動の範囲と松右衛門が生きた時代の精神、海上物流の革新部分を丁寧に分析し、現在確認することの出来る公開、非公開を含めてことごとくをまとめられた画期的な評価本と言えます。現時点での工樂松右衛門に関する文字通りの悉皆調査報告ということになります。しかしながら、未だに不確か、未発見の史料、資料が埋もれているはずです。この評伝を契機に、さらなる調査が進んで海事、造船、築港に関する実態が明らかになることを期待します。

近世海事の革新者(イノベーター) 工樂松右衛門伝―公益に尽くした七〇年 写真

本の目次は以下の通り。
巻頭の辞
風景ノ壱 工樂松右衛門の生い立ち湊町高砂の成立 / 出自の謎をめぐって /
寛延一揆と宮本家 / 名誉挽回の物語
風景ノ弐 兵庫津の発展と松右衛門の成長西廻海運と兵庫津のあきない /
兵庫津の都市構造と支配 /
松右衛門の船乗り稼業 /
兵庫津商人のネットワーク
風景ノ参 織帆創製から御影屋開業まで新たな帆の開発と人生の転機 /
松右衛門帆に託した公益思想 /
港湾普請技術の工夫と研鑽 /
佐比江新地での独立開業
風景ノ四 蝦夷地に挑む群像のなかで兵庫津と北国~蝦夷地交易 /
近世蝦夷地統治事情 /
択捉・箱館築港と公儀御用の拝命 /
高田屋嘉兵衛との関係
風景ノ五 名声とともに生きた晩年海事工房御影屋松右衛門 /
養父母の死と髙砂湊再生 /
奥浦間口堀切改修と鞆津築港 /
旅の終焉と宮本・工樂合併
終章 窮理実践と近代への胎動
あとがき ー顕彰という行為について